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この記事、面白いねぇ

  • do_you_know_kintano_daibouken
  • 2019年4月15日
  • 読了時間: 20分

中村俊輔が思わず唸った、あるJクラブの戦術とは

岩政大樹と初対談、セットプレーでこだわった「相手も味方もさわれない球」

2019.4.13(土) 黒田 俊📷ジュビロ磐田のクラブハウスで行われた対談。いまだ現役の中村俊輔と「PITCH LEVELラボ」など新たな取り組みを始める岩政大樹。写真:海老澤芳辰

サッカーの見方を紹介した本が好調だ。日本代表や海外トップリーグで活躍した中村俊輔(ジュビロ磐田)の新刊『中村俊輔式 サッカー観戦術』(ワニブックス)、昨年現役を引退し執筆や試合観戦会を行う『PITCH LEVELラボ』など新たなサッカーの視点を伝える取り組みを続ける岩政大樹の『FOOTBALL INTELLIGENCE』(カンゼン)がいずれも版を重ねている。希代のファンタジスタと理論派が初の対談に挑む。(JBpress)

「鹿島の選手」という伝統はどう作られるか

――本を出されて、しかもよく売れているとお聞きし参りました。月並みなんですけど、最初にお互いの印象を伺えますでしょうか。

中村:印象!? マサ(岩政)代表何試合した?

岩政:8試合だけです。

中村:8試合か。誰のときだっけ?

岩政:岡田(武史)さんのときに4試合、ザック(ザッケローニ)さんで4試合です。

中村:ということは岡田さんのときの印象があるんだな。

岩政:でも、一緒に試合に出たことはないと思います。

中村:まだボンバー(中澤佑二)とトゥー(闘莉王)がいたのか。

岩政:そうですね。僕は(ワールドカップ)南アフリカ大会の直前に入ったんで。あの2人は鉄板でしたね。

中村:その印象と、あとはアントラーズの出たてのときかな。

岩政:あ、そうですか?

中村:アントラーズって「日本代表になっちゃうんだろうな」みたいなイメージがあるんだよね。(若いうちに)ポンっと出てきて、上(日本代表)まで行っちゃうっていう。ちょっと前だったら昌子(源)くんとかがまさにそうで。だから、鹿島のストッパー、鹿島のボランチ、鹿島のフォワード、鹿島のディフェンダーの選手=代表選手みたいな感覚があって、「ああ、またコイツも同じようになるんだろうな」と思ったら案の定、代表に選ばれて、「やっぱり鹿島はすげーな」って。

――俊輔さんはご著書の中でもアントラーズを「特殊な伝統があるチーム」とポジティブに書かれていましたけど、その伝統色のようなものは、選手にも反映されていますか。

中村:外から見たらそうですね。僕もいろいろなチームを経験してきましたけど、クラブってすごく難しいんですよ。これは絶対ではないけど、「伝統」のようなものを大切にしなきゃいけないと思っていても、例えば強化部の人やスカウトの人が変わると、(チーム自体が)パッと(よくない方に)変わっちゃうことってあるんです。それがどうにもならなくなると、だんだん弱くなって数年でカテゴリーを落としちゃったりするから。

📷中村俊輔。1978年6月24日生まれ。神奈川県出身。日本代表として98試合に出場し24得点。セリエA、スコットランドリーグ、リーガでもプレーした。2月に新刊『中村俊輔式 サッカー観戦術』を上梓

――なるほど。

中村:でも、そうならないよう、中からの働きかけで防げる部分はあるはずで、実際、鹿島はそれができる。特に(小笠原)満男みたいな選手がずっといれば、「それ、違うんじゃない?」ということを、まずグラウンドで直していけて、それを上(クラブ)が感じてクラブを直していく。ジーコさんなのか、強化部の人たちの影響なのか・・・わからないですけど、いずれにしても鹿島の血は「濃い」んだなっていうのはわかりますよね。他のクラブとは違うな、と思います。俺、鹿島の映像を結構、観てるんですよ。

岩政:試合ですか?

中村:練習、練習! 興味あるから。映像で見てさ、内容とかその雰囲気とか観てて。

岩政:へぇ! どうですか、印象。

中村:選手の意識が高い。例えば、攻撃に出ていたダブルボランチが、相手のペナルティエリアから戻ってきてスライディングでクリアをした、そしたらまた前に出て、もう1回攻撃に行く。こういう練習は、なかなかプロになったらなくて。「え、スライディングでクリア?」みたいに感じるんだけど、選手たちがよく理解しているから、スライディングするタイミング――例えば、ショートバウンドとか、足の向きまで考えられてる。普通だったらストッパーがやるんだけど、それをボランチがやっているのを見ると、ああもう・・・って。それをまた若い子が見るでしょう。それは戦うチームになっていく。

――確かに。

中村:ちょっとの映像だけでも感じるよね、笑顔とか一切ないし。

岩政:僕は他のチームのことはあまりよくわからないですけど、いま、色々なチームの練習を観させてもらっていて、鹿島が持つ雰囲気には他クラブと多少、違いがあるのは感じますね。

中村:笑顔はあってもいいんだよ。結局は戦えるチームであるかどうかでさ。

岩政:俊(俊輔)さんが入ったばかりの頃のマリノスの先輩たちはすごかったんじゃないですか。

中村:ピリピリしてたよね。上の選手が下の選手に声をかけるなんてことはないし。当時はサテライトがあったんだけど、俺いきなり上の20人ぐらいの枠に入って・・・井原(正巳)さんがいて、オム(小村徳男)さんがいて、城(彰二)さんがいて、バシバシ喧嘩してるしさ。やばい、と思った。(川口)能活さんもまだピリピリしてたし。

岩政:はははは。

中村:「簡単に打たせんなよ!」って言えば、「今の捕れるだろ!」みたいな(笑)。そんなのが当たり前だった。そういうのはね、鹿島なんかもずっとあるんだと思いますよ。

――岩政さん、どうですか。

岩政:僕が鹿島に入ったのは、ちょうど秋田(豊)さんと入れ替わりだったんですけど、練習参加のときにはまだいらっしゃったんですね。そこで練習試合になって、秋田さんと相馬(直樹)さんに挟まれて左のセンターバックをやらされたんですけど、喧嘩が始まっているわけですよ。僕を真ん中にして(笑)。前に本田(泰人)さんがいたのかな・・・ボランチの人もそこに参戦して、もうとにかく、僕を挟んだところでバチバチ喧嘩をしていて。それを目の当たりにするところからのスタートでしたから、少なからずそういう意識はありました。特に、晩年になるにつれて強くなりましたよね。

――徐々に強くなっていった。

岩政:満男さんたちと一緒に歳を取りながら、彼らと一緒にそれをやって、それを見た若手が同じように受け継いでいって・・・、クラブの雰囲気とかって「あのひと言でチームが変わった」みたいな美談にされがちですけど、どちらかというと日常の中でどういう振る舞いをしているかとか、練習への姿勢をどう持っていっているか、みたいな部分のほうが、選手たちが受け継いでいくんじゃないかなっていう気はしますよね。

セットプレーの「パッケージ」理論

――では、岩政さんから見た俊輔さんの印象っていうのは?

📷岩政大樹。1982年1月30日生まれ。山口県出身。日本代表として南アW杯ベスト16、2011アジアカップ優勝を経験。鹿島アントラーズではリーグ3連覇をけん引。新刊に『FOOTBALL INTELLIGENCE』。メルマガとLIVE配信を組みあわせた『PITCH LEVELラボ』も行っている。

岩政:最初はもう、ずっとテレビで見ている人っていう感覚ですよね。そこから代表に行って、南アフリカ・ワールドカップのときに俊さんがサブ側のメンバーに入ってきて・・・そうすると我々のサブメンバーとスタメン組が紅白戦をやるときに、俊さんがどういう振る舞いをするかやっぱり見るわけですよね。そのときに「こっちにいるメンバーがしっかりとやることで上につなげていくんだ」っていうことをおっしゃっていて、僕らを鼓舞もしてくれたし、実際のプレーでもそれを示していました。そこまでできる人って限られるよなというのが、僕の大きな印象ですね。

――チームへの姿勢が印象的だったわけですね。

岩政:あとはセットプレー。紅白戦とかでセットプレーがあるわけですよ。僕は当然、中で狙っているんですけど、なんとなく「このへんに蹴ってください」っていうのを示すと、十中八九そこに蹴ってくれる。これはすごいなと。もちろん、キックがすごいのは知ってましたけど・・・僕も(チームメイトだった)満男さんや野沢(拓也)選手とプレーしていて、キックのトップクラスの精度はなんとなく知ってるつもりではいたんですけど、さらに上だった。もう「ここに」って言ったら「ここに」来るんで。逆にそれで緊張してしまって(笑)。アバウトで来ると「俺が合せなきゃ」ってなるんですけど、「ここに」って言ったら「ここに」来るんで、それがちょっとすごすぎて。

中村:そんな練習あったっけ?

岩政:紅白戦とか練習試合です。全部来るんです、毎回。緊張して僕は一個も決められなかったです(笑)。「え? きた、きた!」って思っちゃって。何となくの方が良かった(笑)。

中村:はははは。

――メンタル的にも(笑)。

岩政:そうそう。その印象、すごい強いですね。

――そのセットプレーについて俊輔さんは著書で「パッケージで考える」(※1)と書かれています。実は、岩政さんも合わせる側として同じことを仰っていました。俊輔さんがそれを考え始めたのはいつ頃ですか?

(※1)  多くの場合、セットプレーのチャンスは1試合に1回だけではなく何回かあるもの。  キッカーとしては毎回、「この1本で決める」と気持ちを込めているが、相手もいる競技なのでなかなか決まらない。  そんな時、僕は試合中にある複数回のセットプレーをトータルで考え、球種やコースを選んでいく。    例えば、1回目のCKはあえて相手の目線を変えるような球種を選び、2回目以降の布石にすることもある。直接FKでも、GKやDFとの駆け引きを念頭に置き、さまざまなボールを蹴り分ける。(『中村俊輔式 サッカー観戦術』より)

📷『中村俊輔式 サッカー観戦術』(中村俊輔・著)

中村:日本代表に入ってからですよ。あとは海外リーグに行ってより思いましたね。Jリーグではフワっとしたボールで(相手DFの)上から叩くことができても、これがいざ、ワールドカップになったりすると・・・

――「対世界」を見たとき通用しない。

中村:そう。今までのやり方では絶対に勝てない。じゃあ、日本人がセットプレーで強みにできるのは何かを考えて・・・今でさえ「デザイン」とかありますけどね。

岩政:具体的にはどんなことを考えたんですか?

中村:「ピンポイントで速いボール。相手が触ったとしても、そこまで遠くに飛ばない、速攻にならないボール」。そうするとやっぱり落ちるボールで、速いのが一番、究極っていうか・・・。言い方はおかしいかもしれないけど「味方も相手も両方とも触りづらいボール」だよね。で、ちょっと触ったらゴールになるような。だから、「せーの」で合わせるようなボールは、(フィジカルが強くて高さもある・栗原)勇蔵とかボンバーにも蹴ってない。フワッと蹴っていたのは、「これちょっと本当に追いつかなきゃ」っていうときくらいだよね。

岩政:ああ、ありましたね。

中村:ボンバーだったら、助走つけて走れば上から叩ける。でもそれを一回やると、次から相手は、ゾーンにして、ひとり小さくて執拗にマークできる選手をボンバーにつけてくる。そしたらボンバーだって走りづらくなるから、できなくなる。だから、次の次を考えていろいろ蹴らないとね。試していたよね、「この人、ここやれんのかな?」とか。

岩政:それがパッケージですね。そのときは相手も見るし、味方も見るわけですか。

中村:そう。味方で一番うまかったのが福西(崇史)さん。ニアに飛び込むのがうまい。もちろん「せーの」で走ったら、勇蔵とかボンバーだけど、浮いたボールに対して、軌道を読んで自分がどこでジャンプするか、シナリオをしっかり体で表現できるのは福西さんだったかな。運動能力が高い人ってそうなんだなって思ったよね。

――蹴るときにそのくらいまでイメージ、理想の形を思い描いているわけですね。

中村:そうですね。ニアで潰れながらだと大黒(将志)が上手かったです。プルアウェイ(プル&アウェイ)するとかね。

サッカートレンドが変えた「トップ下」の役割

岩政:俊さんは、本に「トップ下」についての思いを書かれていましたけど、現代のサッカーだとその役割が大きく変わってきてると思うんですね。

中村:だね。

岩政:今の潮流だと、トップ下はサイドからうまく入り込んだり、ゴール前に顔を出したりっていう役割が作られてるところもあると思うんです。それってサッカー界を俯瞰して見たときにどう感じられてるんですか。つまらなかったりしますか?

中村:いやいや。やっぱこうなんだよな、くらいかな。俺みたいなタイプはいらなくなったなって(笑)。

岩政:いやいやいや(笑)。

中村:2トップが1トップになって、それはイコール、(昔の)トップ下がいなくなる形だよね。4-2-3-1だとしても、トップ下にいる選手はいわゆるゲームメーカーよりも、ボランチっぽいゲームメーカーで、「労を惜しまない人」みたいな感じでしょう。

岩政:確かに。そうじゃないやり方もあると思われますか?

中村:(システムは)ぐるぐる、ぐるぐる回るじゃん。例えば、また5バックっぽいチームが出てきてるけど、その数年前にはダイヤモンド(セントラルMFが縦に位置する)が注目された時期があった。ドイツとかね。で、最近ではグアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)が出てまた変わってきて・・・、でもまあ、ここ10年はグアルディオラで回ってるか。

岩政:本当にそうですね。

中村:結局、自国のリーグの強いチームがスタイルの象徴になっていく。そうすると、そこにまずどうやって対応するか。その次に、追いつこうとして真似をする・・・って、変わっていくのは自然な流れだよね。だから別に(一昔前の)トップ下が減ったから、つまらないとかそういうのは・・・、ちょっとだけつまらないくらいで(笑)。いや、それは冗談で、もっとやれるって見せたいけどね。だって今、(グアルディオラが率いるマンチェスター・シティは)ダビド・シウバと、ベルナルド・シルバが一緒に出てるでしょ?

岩政:ポルトガルの。左利きで小さいけど攻撃的ですよね、ベルナルドは。

中村:そうそう。MFでさ、このふたりが同時に起用されるって今までのサッカーには絶対なかった。もちろん、それはトップレベルだからというのはあっても、普通はどっちかでしょう。

📷

岩政:確かにそうですね。

中村俊輔「衝撃的だったミシャサッカー」

中村:Jリーグで言ったら、俺はミシャ(ペトロヴィッチ・現コンサドーレ札幌監督)さんが出てきたときは弱った。守るときは5-4-1で、攻めるときは4-1-5とかにして。正直、衝撃的だった。青山(敏弘)くんにも「これいいよね」って言ったもんね。

岩政:そうなんですか。

中村:日本代表でも参考になるんじゃないかなって思うよね。森保(一・現日本代表監督で当時はサンフレッチェ広島の監督でミシャサッカーを引き継いだ)さん、クラブワールドカップでも2試合勝ったし。選手をある程度型にはめることで、日本人の長所を生かして、短所をうまく戦術で消しているよね。

岩政:なるほど、なるほど。

中村:いや、個人的にはあんまり好きじゃないよ(笑)。

岩政:はははは。

中村:システムに選手を当てはめる感じが、個人的にはね。でも、実際にやっていると、自分たちのチームの強みが「戦術」と「選手の個」で上手く消されているんだよね。人が人を消すっていうのが昔だったけど、今はそういうのじゃなくて、戦術と連動とかで・・・。

――グループでもう全部消しちゃう。

中村:そうそう。グループで消せる。だからトップ下は、変わっていくよね、それは。

岩政:そうですね。

――トップ下と同じくらい、センターバックも役割が変わってきています。 【後編「中村俊輔と岩政大樹が共鳴した現代サッカーの疑問点」に続く】


中村俊輔と岩政大樹が共鳴した現代サッカーの疑問点

中村俊輔が原点と語るトルシエの練習法

2019.4.14(日) 黒田 俊📷ジュビロ磐田のクラブハウスで行われた対談。いまだ現役の中務俊輔と「PITCH LEVELラボ」など新たな取り組みを始める岩政大樹。写真:海老澤芳辰

サッカーの見方を紹介した本が好調だ。日本代表や海外トップリーグで活躍した中村俊輔(ジュビロ磐田)の新刊『中村俊輔式 サッカー観戦術』(ワニブックス)、昨年現役を引退し執筆や試合観戦会を行う『PITCH LEVELラボ』など新たなサッカーの視点を伝える取り組みを続ける岩政大樹の『FOOTBALL INTELLIGENCE』(カンゼン)がいずれも版を重ねている。希代のファンタジスタと理論派が初の対談に挑む、後編。(JBpress)

岩政大樹「判断を先に言ってしまう」現状の指導

――トップ下と同じくらい、センターバックも役割が変わってきています。

中村:そうそう。マサはどうなの? 例えばさ、自分がセンターバックで、3バック、4バックって試合ごとに変えることには違和感はない?

岩政:選手によるでしょうね・・・。

中村:頭の中ではさ、3バックのときは、(隣のセンターバックとの)距離が短いからゴール前は守りやすい(※1)。それはわかるんだけど、4バックのときのほうが、「ゾーンの責任」とか「プレッシャー」みたいなものがすっきりしていて、わかりやすいときだってあるじゃない。これまでマサは3バックでやるときは少なかった?

📷※1:「3バック」は守備時に左右のMFないしウィングがDFラインに入ることが多く、(各レーン)5人でゴール前を固めるため、守りやすいと言われる。(表:『中村俊輔式 サッカー観戦術』)

岩政:3バックは(ファジアーノ)岡山で2年間やりました。そこでやっと知ったんですけど。

中村:(3バックの)真ん中?

岩政:はい、真ん中です。そのとき、僕もこの本に書いたし、俊さんも書かれてたんですけど、3バックと4バックでは、意外と(守備的だと言われる)3バックのほうが(選手間の)ギャップが使われやすい・・・。

中村:間に入られたりとか。

岩政:はい。その感覚は僕もあって。4バックだと完全に自分の前に走る選手に付いていくだけで、わかりやすいんですけど、3バックだと間に置いちゃうことが多くて。

中村:そうだよね。

岩政:そこはやっぱり違いがあります。

中村:レーンが多くなればなるほど、実は走る選手、入ってくる選手が多い(※2)よね。ゾーン的にはちょっと広くなるけど、4バックのほうが選手の能力は発揮しやすい?

岩政:そうですね。ただ人が余らなくなるんで、付いていくのか、やめるべきなのか、あるいは前に出るべきなのかっていうところの判断ができる選手が2人、ちゃんといないと4バックは難しいと思いますね。

📷※2-1:「3バック」時にサイドMFないしウィングの選手がDFラインに入ると各レーンをケアできるが、その分、入られたくない「間」が増える(黒丸)。表:編集部作成📷※2‐2:「4バック」時は各レーンこそ人が足りないが、「間」の数は減る(黒丸)。表:編集部作成

中村:なるほどね。選手が増えれば、それだけの連携が必要になってくるから。だから、どっちのフォーメーションがいいとかじゃない。

岩政:そう思います。

中村:うまく生かせばどっちも強みになるっていう。なるほど・・・。

中村俊輔「何のためにそうするのか」を理解できているか

📷中村俊輔。1978年6月24日生まれ。神奈川県出身。日本代表として98試合に出場し24得点。セリエA、スコットランドリーグ、リーガでもプレーした。

中村:じゃあさ、足もとがうまい選手が大事になってきている、ってところはどうなの? (マンチェスター)シティみたいに、後ろからボールをつなぎ始めて、ボランチが捌くっていうのがなくなってきてるところ。

岩政:ああ。

中村:昔は、ボランチが組み立ての起点になっていたのに、シティはそのもうひとつ後ろのディフェンスラインが組み立てる。サイドバックが中に入ってきて、その4枚とボランチ1枚だけでハーフウェイラインまでボールを運んでしまって、もう一人のボランチなんてアタッカーみたいになっててさ。

岩政:そうですよね。

中村:だから、昔の「潰す人」と「パス役」のダブルボランチみたいなこともなくなってきてる。その点さ、昔のアントラーズってそこまでストッパーに足もとを求めてなかったわけじゃない。ストッパーも足もとがないと使えない、みたいな感覚になっていて、それはどう感じてるの? それで代えられちゃう後ろの選手って結構、いると思うんだよね。

岩政:なるほど、はい。

中村:後ろでボールをつなげない、回しが遅い・・・みたいな部分で外されちゃう。でも、DFにはそれ以上の役割もいっぱいあるわけで。

岩政:僕個人としては選手たちを活かすほうからチームを作る、というのがあるべき姿だと思うんですね。それがスタイルから作られるとちょっとキツイなと感じます。

中村:そうなの。怖いんだよ。いま、「つなぐ」スタイルが主流だけど、もし自分が指導者になって、小学生や中学生に「つなげ! つなげ!」って言うと、つなぐことばっかりに・・・。

岩政:そうです、そうです。

中村:何のためにそうするのか、とか分からないわけでしょう。岩政先生は(笑)どういうふうに思うの? マサ自体は、つなぐタイプではなかったわけで。

岩政大樹「遠くから見るか、近くから見るかが違う」

岩政:そうですね。でも、ここは僕もすごい難しいところだと思っていて。最近、子どもたちを指導していると、俊さんたちの世代と、ヤット(遠藤保仁)さん、(中村)憲剛くん、満男さんとか・・・この年代と、ちょっと下の世代って教わり方が違ってるんです、たぶん。相手と対峙するときに、俊さんたちは遠くから見てますよね?

中村:うん、そうね。

岩政:でも僕らよりも下の世代って、近くから見るんですよ。

中村:あー。

岩政:近くから目線が入ってくるんで。僕らと全然目が合わないんですよ。この感覚の選手たちがすごく多くて。で、よくよく見てると、指導者の人が「つなげ! つなげ!」って「判断」を先に言ってしまうから、みんな近く、手前だけ見てるんです。

📷岩政大樹。1982年1月30日生まれ。山口県出身。日本代表として南アW杯ベスト16、2011アジアカップ優勝を経験。鹿島アントラーズではリーグ3連覇をけん引。

中村:なるほどねー。だから例えば、キーパーも無理してつなごうとしてさ、近くを探すんだけど、何の意図があってつなぐのかがわからないままにやっている感じはする。成功体験もないし。だから、何が一番いいかのか、どういうふうにやってるのか、ヨーロッパとかで見てみたいよね。教え方とかさ。

岩政:そうですね。

中村:あとさ、「近くから見る」っていう、それがいけないことでもないから怖いんだよね。

岩政:本当にそうです。これも本に書いたんですけど(※3)、よくセンターバックに対して「開け! 開け!」って言うじゃないですか? これに対してすごく疑問があって。僕、2年間社会人を教えていたんですね。そしたらキーパーがボールを持つとセンターバックがバッと開くわけです。

(※3)  ビルドアップ時のセンターバックに出される指示でよく聞かれるのが「開け ! 」という声ですが、開いた選手たちに「なぜ開くの ? 」と聞くと答えられない選手ばかりです。これでは意味がありません。開くことは相手の立ち位置に関わらず通用する万能のポジショニングではありません。それなのに「開け ! 」の声に判断なく開く選手は、相手に対応されると立ち位置を間違えることが多くなります。  センターバックが開くことの目的は、まさに「ボールを受けたときに、自分と相手ゴールを結んだ線上に相手を立たせないこと」です。  つまり、立ち位置を定める基準となるのは「開くこと」ではなく「(自分に対応している)相手からずれること(相手に正面からアプローチされないこと)」。  つまり〝相手〞を見て決めるべきものです。(『FOOTBALL INTELLIGENCE』より)

📷『FOOTBALL INTELLIGENCE』岩政大樹・著

中村:うん、うん。

岩政:相手とのポジションをずらす、距離をとる、そのために開くのはわかるんですけど、もしサイドハーフが自分に近づいて来たら、逆に内側に行ったほうがいいじゃないですか?

中村:そうだね。

岩政:だから、開いたときに「なんで、今開いたの?」って聞くと「いや、開けってずっと言われたんで」しか言わない選手が多かったんですよ。

中村:ボールに対して開けばいいと思ってるわけか。

岩政:そうです、そうです。実際のピッチでは「相手のポジションに対して変わる」という概念がないんですね。本質的な、いいポジションがちゃんと伝えられないから、「開く」こととか「つなぐ」ことという、「判断」のところの指示ばかりになっているとはすごく感じてますね。

中村:難しいね・・・。全員が戦術家じゃないと試合に出られなくなってくる感じだよね。古いけどさ、あと好きではないけど(笑)、トルシエの練習が面白かったんだよね。

中村俊輔「原点中の原点」は、トルシエの練習

岩政:へえ!

中村:相手がいない練習で、キーパーから始まって相手のゴールまで行くんだけど・・・

岩政:シャドーですか?

中村:そう。シャドー。でさ、ストッパーの人が顔を上げて、周りの人が、「○○に当てろ!」って言うの。そうすると、それを聞いたフォワードの人がボールを受けに来て、その反応をしたら、俺とかモトヤン(本山雅志)とかサイドが反応し始める。そこで左サイドの俺が外に動き出したら、右サイドは中に入っていく。もし俺が中に入ったら、被っちゃうから、右サイドはだいたいオーバーラップし始めるの。試合中には絶対ないんだけどね。そしたらそれを見た3バックの服部さんはもう動き出してる。

岩政:へえ・・・。

中村:「あっ」という反応。誰かの動きを見て、自分たちのイメージとか、次に何が起きるのかを考えてね。あの練習はひとつ、原点中の原点。

岩政:パターンが決まってるわけですか?

中村:最初は決まってる。「フリー!」って言われたらそれがなくなる。そうすると誰だって「自分は考えて動いてますよ」っていうのをアピールするから・・・だって、ストッパーが上がるときなんて試合中ないし、危ないんだけど、やる。

岩政:なるほど。

中村:あれから何年経ってるんだろう? 20年近く経ってるかもしれないけど、俺はそれがまだ染みついているから、自分から次に何が起きるか、次の次を考えてプレーするんだけどね。それは「動き出せ!」「開け!」ということを教えるのとはちょっと違う。それだとそれだけで終わっちゃうから。

岩政:確かに。

中村:なかなか今はそれができない。マサが言うように、教わり方が違うのかもしれないし。でも、だから自分が指導者になったときが怖いよ。自分の感覚を捨てなきゃだめなのかな、とか。一番は何も言わなくてもやらせる。自主性を持たせながら、うまく頭と心を乱すやり方がいいんだろうけどね、オシムさんみたいな。

📷

――なるほど。サッカー変化は、ピッチだけじゃなく教わり方や、選手個々の持っている資質も変えていくわけですね。

中村:ですね。サッカーは難しいです。

岩政:はははは。勉強になりました、ありがとうございました。

中村:また!


 
 
 

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